「まさか、そんな……」
泣くだけ泣いて、やっと落ち着いたニレアから何があったのかを聞いて、スフィラは絶句した。
それは、平凡な日々の中に生きている自分たちにはあり得ないはずの、残忍で、非現実的な話で。
けれど実際、ギルニーは重傷を負い、ここにいる。
「スフィラ……」
泣き出しそうな瞳が力なく俯いた。
「どうしてこんな事になるの? わかんないよ、私……」
「……ニレア」
スフィラはそっとニレアの肩に手をかけた。
「大丈夫、落ち着くまで、ここでゆっくりしていったらいい。ギルニーも、もうしばらくは絶対安静だし。
その間、ニレアが手伝いをしてくれたら俺も嬉しいよ。仕分けが終わってない薬草が貯まっちゃってて」
何だか本気で困っているその表情に思わずくすりと笑うと、スフィラもにこりと笑った。
「さ、ご飯にしよう。お腹がすくと、悪いことしか考えないからね」
翌日早朝、薬草を届に街に出かけたスフィラが戻ってきたのは夕方だった。
「ギルニーはどんな具合?」
「ん、熱も下がったし、何だか楽になったみたい」
暖炉の傍に背負って帰ってきた荷物を下ろしながら、
「おーい、起きれるかい?」
「なんとか……」
答えながら身体を起こそうとしたギルニーが、「いちちちち……」と亀のように寝台に突っ伏した。
「あはは、無理するからだよ」
「何だよ……、起きれるかッて言ったのはお前じゃないか」
恨めしそうに反論するギルニー。
「お前こそ何だよ、重傷の親友を放って街に行っちまうんだから。友達甲斐のない奴だなぁ」
「言ってろ。俺の看病より、可愛い義妹の看病の方が嬉しいくせに」
びしいっ! と指差されて、うぐっとギルニーは言葉に詰まり、
「違うわいっ!」
ぷいっと横を向いた。その頬は少し赤い。
「またまた、照れちゃって〜。さ、ニレア、こんなダメダメなお兄ちゃんは放っておいてご飯の支度しよう」
「う、うんっ」
ギルニーが照れているのにつられてニレアまで照れてしまった。スフィラのいない1日、ニレアはずっとギルニーの世話をしていて何だかいい雰囲気だったし、それに、ニレアは義兄というだけじゃなく、ギルニーの事を好きだったので。
真っ赤になって俯いてしまったニレアを見て、「この兄妹は……」と、苦笑いをしながら、スフィラは少し遅目の夕食の支度を始めた。
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