馬は全速力で駆けた。
街を駆けぬけ、その外に広がる広大な森へ。
余り人が入ることの無い深い森の奥にギルニーはためらいなく馬を進める。
「あ……あ……」
背後からギルニーに抱え込まれるような格好で馬に乗せられていたニレアは、パニックから少しずつ現実に戻ってこようとしていた。
「あ……あ――っ!!」
ぶわっと涙か溢れ出す。
「お、とう、さ、ん……っ!」
搾り出すような声で叫び、泣き出したニレアに、ギルニーは声をかけることが出来なかった。
この義妹と義父がどんなに仲が良かったかギルニーは良く知っていた。そして、優しくて大らかな義父を、ギルニーも大好きだった。
だが、その義父を殺したのは、自分の実の母と叔父だ。
何と謝ればいいのか。
謝る言葉も見つからなかった。自分は父親を殺した女の息子なのだ。
そう、確かに、自分はあの女の「息子」だった。
あの時、母が語った昏(くら)い誘惑。母の言葉に何も考えられない程のショックを受けていたとはいえ、その言葉は確かに甘く、ギルニーの心を一瞬絡め取ったのだ。
この、真っ直ぐで、可愛い、眩しい義妹を、自分のものに……。
一瞬でもその誘惑に負けた自分をギルニーは許せなかった。
母を、叔父を、憎んだ。自分の存在を呪った。
獣のような、嗚咽めいた呻き声が、食いしばった口から漏れた。ギルニーも泣いていた。
背中を走る焼けつくような痛みも、この義妹の痛みとは比べものにもならない。
せめて、義妹を叔父の手の届かない所へ。
崩れ落ちそうになる体を必死に持たせながらその一心で馬を駆った。
誰も訪れる事の無い森深くに住む、絶対的な信頼を寄せるただ1人の友の許(もと)へ。
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